懐かしのカセットテープ

1970年代後半から1990年代にかけての、いわゆる「カセットテープ黄金時代」に市販されていた製品についてまとめました。

当時はメーカー各社が熾烈な開発競争を繰り広げ、毎年モデルチェンジが行われるほど多種多様なテープが存在しました。ここでは、その中でも代表的で象徴的なモデルを中心に紹介します。

カセットテープの基本種別

まず、テープの種類について簡単におさらいします。

種別 通称 磁性体 特徴
TYPE I ノーマルポジション 酸化鉄 最も一般的。中低域に厚みがあり、扱いやすい。
TYPE II ハイポジション (ハイポジ) 二酸化クロム、コバルト添加酸化鉄 高域特性に優れ、ノイズが少ない。クリアな音質。
TYPE III フェリクローム 酸化鉄と二酸化クロムの2層塗り 現在はほとんど見かけない。両者の「良いとこ取り」を狙ったが中途半端な評価も。
TYPE IV メタルポジション 純鉄(非酸化鉄) 全帯域で圧倒的な高出力とダイナミックレンジ。最高音質だが高価。

主要メーカー別 代表モデルリスト

【凡例】

1. TDK (東京電気化学工業)

カセットテープの代名詞的存在。「音のTDK」として、シャープでキレのあるサウンドが特徴とされていました。

型番 種別 主な年代 音質評価・特徴 当時の価格帯 (C-60)
D (Dynamic) ノーマル 1970s - 1990s 最もベーシックなモデル。信頼性が高く「とりあえずD」と言われた。 250円~400円
AD (Acoustic Dynamic) ノーマル 1970s - 1990s ノーマルテープの定番。Dより高音質でバランスが良く、ポップスやロックに最適。 350円~500円
AR / AR-X ノーマル 1980s ノーマルの最高峰。メタルに迫る高出力を実現。デッキの性能が問われる。 500円~650円
SA (Super Avilyn) ハイポジ 1970s - 1990s ハイポジの世界的ベストセラー。クリアで伸びやかな高音が魅力。 450円~600円
SA-X ハイポジ 1980s - 1990s SAの上位モデル。2層塗布技術でさらに高出力、高解像度を実現。 600円~800円
MA (Metal Alloy) メタル 1980s - 1990s メタルテープの標準機。圧倒的なダイナミックレンジ。CDからの録音に最適。 800円~1,200円
MA-R / MA-XG メタル 1980s 重量級ダイキャストフレーム採用の超弩級モデル。カセットの王様。所有する喜びも。 1,500円~2,500円

2. SONY (ソニー)

オーディオ機器からテープまで手掛ける総合力。「原音探求」を掲げ、クセの少ないバランスの取れたサウンドが特徴でした。

型番 種別 主な年代 音質評価・特徴 当時の価格帯 (C-60)
CHF / BHF ノーマル 1970s - 1980s 初期のベーシックモデル。BHFはCHFの後継で、安定した品質で人気。 300円~450円
HF / HF-S / HF-X / HF-ES ノーマル 1980s - 1990s SONYノーマルの主力シリーズ。HF-ESはノーマルの限界に挑んだ高性能モデル。 350円~600円
JHF ハイポジ 1970s - 1980s 初期のハイポジ。クロムテープを採用。 500円~650円
UCX / UCX-S ハイポジ 1980s ハイポジの主力。TDKのSAシリーズと人気を二分したライバル。UCX-Sは最高峰。 500円~750円
Metallic メタル 1970s末 国産初のメタルテープの一つ。歴史的なモデル。 1,200円前後
Metal-ES メタル 1980s メタルテープの傑作。精緻でパワフルなサウンド。多くのファンを獲得した。 900円~1,300円
Super Metal Master メタル 1990s初頭 極厚のセラミック複合材シェルを採用。SONYの技術の結晶であり、究極のテープ。 2,000円~3,000円

3. maxell (日立マクセル)

「音の感動を録る」をキャッチコピーに、パワフルで厚みのあるサウンドが特徴。特に中低域の力感に定評がありました。

型番 種別 主な年代 音質評価・特徴 当時の価格帯 (C-60)
UL (Ultra Low Noise) ノーマル 1970s - 1990s ベーシックなノーマルテープ。TDKのD、SONYのHFと並ぶ定番。 250円~400円
UD / UDI ノーマル 1970s - 1990s TDKのADに対抗する高音質ノーマル。厚みのあるダイナミックな音が魅力。 350円~500円
XLII / XLII-S ハイポジ 1980s - 1990s maxellを代表するハイポジ。音楽的なまとまりが良く、TDK SAと人気を二分。Sは上位。 500円~750円
MX メタル 1980s - 1990s メタルテープの主力。パワフルで骨太なサウンド。ロックやフュージョンに強い。 800円~1,200円
Metal Vertex メタル 1990s初頭 3ピース構造の耐振ハーフを採用した最高級モデル。maxellの集大成。 1,800円~2,800円

4. AXIA (富士フイルム)

写真フィルムで培った技術を投入し、1980年代半ばから台頭。カラフルでポップなデザインが若者に絶大な人気を博しました。

型番 種別 主な年代 音質評価・特徴 当時の価格帯 (C-60)
PS-I / PS-II ノーマル/ハイポジ 1980s後半-90s スリムケースとカラフルなデザインで大ヒット。バランスの取れた素直な音質。 300円~500円
J'z (J'z1, J'z2, J'z METAL) ノーマル/ハイポジ/メタル 1990s 若者向けブランド。元気で明るいサウンド。デザインもポップでバリエーション豊か。 300円~700円
AU-I / AU-IIx ノーマル/ハイポジ 1980s オーディオファイル向けの高品質シリーズ。繊細でクリアな音。 400円~600円
METAL-XS メタル 1990s AXIAの高性能メタル。パワフルさと繊細さを両立したサウンド。 800円~1,100円

5. That's (太陽誘電)

CD-Rで有名になる前から、硬派で高品質なテープを製造。マニアックな製品でオーディオファンから高い評価を得ていました。

型番 種別 主な年代 音質評価・特徴 当時の価格帯 (C-60)
CD/IF, CD/IIS ノーマル/ハイポジ 1980s後半-90s CDからの高音質録音を謳ったシリーズ。解像度が高いクリアな音。 400円~650円
MG-X, MR-X PRO ハイポジ/メタル 1980s後半 プロユースも意識した高性能モデル。力強くダイナミックな音質。 600円~1,200円
CD/IV メタル 1990s That'sの主力メタルテープ。非常にパワフルで高S/N比を誇る。 900円~1,300円
SUONO ハイポジ/メタル 1990s レジンコンクリート製の重量級カセットハーフ採用。究極の制振性を追求した高級モデル。 1,500円~2,500円

6. DENON (日本コロムビア)

レコード会社・オーディオメーカーとしてのノウハウを活かし、クセのない落ち着いた高品位なテープを製造していました。

型番 種別 主な年代 音質評価・特徴 当時の価格帯 (C-60)
DX1, DX3, DX4 ノーマル 1980s DXシリーズとして展開。クセのないフラットで素直な音質が特徴。 300円~550円
HD6, HD8 ハイポジ 1980s-90s 安定した高域特性を持つハイポジ。クラシック等の録音に適したモニターライクなサウンド。 500円~750円
HD-M メタル 1980s DENONのメタルテープ。ワイドレンジで情報量豊かなサウンド。 900円~1,200円
S-PORT ハイポジ/メタル 1990s 高性能とデザイン性を両立させたシリーズ。クリアで躍動感ある音。 550円~900円

時系列で見るカセットテープの進化


それぞれのテープには、録音した音楽だけでなく、当時の空気や思い出も詰まっていることでしょう。