私たちが日常的に利用する鉄道の「相互直通運転」。とても便利ですが、その裏側には驚くほど複雑な技術的・物理的な制約、そして鉄道会社たちの長年にわたる努力が隠されています。本ページでは、「JRのE233系は東急東横線を走れるの?」という素朴な疑問から、相互直通運転の核心に迫ります。
直通運転を巡るQ&A
Q1. JRのE233系7000番台は東急東横線を走行できますか?
結論:走行不可能です。
理由は主に2つあります。
- 保安装置の非互換性: JRのATACS/ATS-Pと東急のCS-ATCは全くの別物です。電車は対応する信号システムがないと安全に走れません。
- 車両限界の抵触: E233系は車体幅が2,950mmと広く、東横線の車両(約2,800mm)より約17cmも幅広です。ホームやトンネルに接触してしまいます。
Q2. ではなぜ、E233系7000番台は相鉄線なら走れるのですか?
これは、E233系が「相鉄・JR直通線」のために特別に改造された専用車両だからです。
- 相鉄線の規格: 相鉄線はもともとJRと同じ広幅の車両が走れる規格で作られていました。
- 専用の改造: E233系は、相鉄線用の保安装置(相鉄形ATS)を追加で搭載する改造を受けています。
つまり、「相鉄・JR直通グループ」と「相鉄・東急直通グループ」は、車体幅と安全システムが根本的に異なる、全く別の「直通グループ」なのです。
Q3. JRに東横線と同じ車体幅の車両はありますか?それなら走れますか?
はい、存在します。地下鉄乗り入れ用のE233系2000番台(常磐線-千代田線)などが狭幅車体です。
しかし、これらの車両も東横線用のCS-ATCやTASC(定位置停止装置)などの安全システムを搭載していないため、営業運転は不可能です。車体幅はクリアできても、安全の壁は越えられません。
未来を創るビッグプロジェクト (2025年現在)
新空港線(蒲蒲線)
東急多摩川線と京急空港線を結び、都心西部から羽田空港へのアクセスを劇的に改善する計画。
最大の挑戦:
東急(軌間1,067mm)と京急(軌間1,435mm)の線路幅が全く違うこと。この約37cmの差をどう乗り越えるかが鍵となります。
JR羽田空港アクセス線
JRの既存路線網と休止貨物線を活用し、羽田空港へ3つの新ルートを整備する計画。
プロジェクトの性質:
JRネットワーク内で完結するため、規格合わせの問題はほぼありません。自社の強みを活かした「内政改革」に近いプロジェクトです。
規格合わせの壮大な歴史とジレンマ
現在の複雑な直通ネットワークは、鉄道会社の技術者たちが何十年も前から会社の垣根を越え、地道に協議と調整を重ねてきた努力の結晶です。直通計画が本格化する10〜15年前から、新造車両は直通を前提に設計され、既存車両は大規模な改造が施されてきました。
しかし、直通運転にはジレンマもあります。新しいルートができて便利になる一方、行き先が分散することで「自分の行きたい方向の電車が減る」という既存利用者への影響も考えられます。鉄道会社は、ダイヤを最適化することで、この難しい舵取りに挑んでいます。
物語の登場人物(主な車両たち)
JR東日本 E233系7000番台
概要: JR埼京線・川越線などで運用されるJRの標準的な広幅車両(2,950mm)。相鉄線直通用の改造を施され、相鉄線内は走行可能。しかし車体幅とシステムの違いから東横線は走行不可。
東急電鉄 5050系 (とその仲間たち)
概要: 東急東横線の主力。狭幅車体(2,778mm)で、東急・メトロ・東武・西武・相鉄など、多数の会社のシステムに対応する「スーパーマルチプレーヤー」。
相模鉄道 20000系 / 21000系
概要: 相鉄線から東急線へ直通するために開発された車両。東急の規格に合わせた狭幅車体を持つ。
相模鉄道 12000系
概要: 相鉄線からJR埼京線へ直通するために開発された車両。JRのE233系と同じ広幅車体を持つ。こちらは東急線には入らない。